Vol.7 オフィスに「実験環境」を凝縮できるか?
グローバルバッテリー企業【AESCジャパン】
Kタワー横浜への本社移転プロジェクト

起業、未開拓のエリアへの進出、そして新規拠点の設立。都心・海外へのアクセスに優れ、コストパフォーマンスも良い【みなとみらい21地区】は、経済圏が急成長しているビジネスエリアです。業種を問わない国内外の企業がオフィスを構えるなか、各社は何をメリットにこの地を選び、オフィスを作り込んでいるのでしょうか。

今回は、みなとみらいの新たな中心地のひとつ「ミュージックテラス 60・61街区」の「Kタワー横浜」にグローバル本社を移転した株式会社AESCジャパンを訪問。安全性の高いリチウムイオンバッテリーを開発し、世界のEV(電気自動車)やESS(定置用蓄電システム)に採用されているグローバル企業です。

本社機能に加えて高度な設備を揃えた実験室まで完備した、技術企業ならではのグローバル本社移転の舞台裏を伺いました。

事業内容に密着し、企業のあり方を表現したオフィス空間づくりのためにチェックしたいポイントが満載です。オフィス移転をお考えの担当者様はぜひ参考にしてください。

Kタワー横浜

AESC 横浜グローバルヘッドクォーター(Kタワー横浜)

Kタワー横浜

AESC 実験室

Kタワー横浜

AESC 実験室

株式会社AESCジャパン

経営企画部 部長 原口 直貴
経営企画部 主管 福島 大輔
先進技術開発部 担当部長 大津寄 貴司
先進技術開発部 課長 河野 安孝

Kタワー横浜

(中央左)経営企画部 原口直貴氏 (左)福島大輔氏
(中央右)先進技術開発部 大津寄貴司氏 (右)河野安孝氏

EV・ESSの心臓部「リチウムイオンバッテリー」を提供するグローバル本社 移転の経緯は?

AESCの主力製品はリチウムイオンバッテリー。日産「リーフ」をはじめとして、三菱自動車、ホンダ、ルノーなど世界中のEVおよびESSに採用され、さらに今後も様々なグローバルメーカーとのプロジェクトが控えています。

そのグローバル本社が「Kタワー横浜」に移転したのは2023年11月。経営企画部 原口直貴 部長に、まずは本社移転の経緯から伺いました。

「私たちAESCは2007年に創業しました。日産自動車とNECグループが設立した車載バッテリーメーカーとしてスタートを切り、日本では座間本社の工場から日産『リーフ』などのEVにバッテリーを供給していましたが、2019年に再生可能エネルギー企業のエンビジョングループに事業譲渡。クライアントを全世界に拡大しながら現在へと至ります。現在は6カ国に生産拠点を抱え、さらに持続的に成長していくためにオフィス拡大が必要になったのです」

事業拡大を見据えてのオフィスの拡張は、企業の移転ニーズとしては王道と言えるものです。人材獲得のためにも新オフィスは重要な役割を担います。

「採用面でのニーズは大きかったですね。座間の旧本社は最寄駅から徒歩30分以上の距離がありました。創業時からのメンバーにとっては慣れ親しんだ場所でしたが、新卒・キャリアともに採用活動においてネックになることがある。都市部でオフィスを開き、気持ちも新たに優秀な人材を迎えるため、2022年ごろから移転計画がスタートしました」

グローバルな事業展開に伴い、大都市圏を目指したAESC。移転候補地のセレクトにも同社ならではの基準があったそうです。

Kタワー横浜

原口直貴氏

みなとみらい・品川・新横浜……? 移転地はどう選ぶか

移転先エリアは、みなとみらい21地区の「ミュージックテラス 60・61街区」。入居先のオフィスビル「Kタワー横浜」のみならず、ラグジュアリーホテル「ヒルトン横浜」、世界有数の動員数を誇る大規模アリーナ「Kアリーナ横浜」などに囲まれた開発中のエリアです。その地を選ぶまでに多くの候補地を検討したと言います。

「移転先の条件はまず交通アクセスでした。幹線道路や新幹線などの大動脈が近くに通っており、空港への利便性もグローバルなビジネス展開のためには必須です。その条件を満たすエリアとして候補に挙がったのが『品川』、『新横浜』、そして『みなとみらい』。検討には時間がかかりましたね」

品川には多くのグローバル企業が本社を構えるブランド力があり、新横浜はコストパフォーマンスなどバランスが良い土地です。みなとみらいは新しい経済圏が成長しており、AESCのような研究開発企業を積極的に誘致しています。決め手は何だったのでしょうか?

「候補となったエリアそれぞれに魅力がありましたが、『品川』は旧本社のある座間に通勤していた社員にとってはやや距離がありすぎました。移転時、現在のメンバーにストレスをかけないことは大切です。コストパフォーマンスの面では『新横浜』がもっとも優れていましたが、新しいオフィスビルは多くなく、移転にあたっての制約もありました。アクセスとクオリティの双方でもっともバランスが良い土地が『みなとみらい』だったということですね。座間だけでなく相模原や茨城の工場にも行き来しやすく、日産自動車様の本社をはじめとしてクライアントの拠点が近くにある。当社の商圏にも該当していました」

「みなとみらい」がビジネスエリアとして成長している理由は、企業によってさまざまな拠点地としてのチェックポイントをクリアする総合点の高さです。 さらにAESCのケースでは、テナント選びの際に独特のハードルがあったといいます。

Kタワー横浜

福島大輔氏

Kタワー横浜入居の理由 最大のハードルは「実験室の設置」

AESCジャパンの社員数は約1,800名。うち、みなとみらいの新本社に通勤するコーポレート部門と開発部門のメンバーは総計で180名ほどでした。その規模を受け入れたのが「Kタワー横浜」17階〜21階の5フロアにまたがるオフィス空間。その入居の経緯を語っていただいたのは、同社のリチウムイオンバッテリー開発を指揮する先進技術開発部 大津寄貴司 担当部長です。

「『Kタワー横浜』は横浜駅から徒歩圏内で、オフィスの広さも希望通りでした。しかし一番の決め手はそこではありません。というのも、当社の本社移転は一般的な企業とはかなり条件が異なりました。執務エリアに加えて『実験室』の設置が不可欠だったのです」

本社オフィスは、顧客やパートナー企業、他拠点の社員などを迎える会社の重要な窓口。国内外から訪れるさまざまな関係者に製品を紹介する場にもなります。しかしながら、AESCの主力製品であるリチウムイオンバッテリーは、取り扱う環境がきわめて特殊でした。

「リチウムイオンバッテリーは保管や検査のために吸排気や除湿、大容量の電源といった設備が必要になります。座間の旧本社は工場用地であったため専用設備を揃えることができましたが、都市部のオフィス内にはどうすれば再現できるのか?本社移転プロジェクトにおけるもっとも大きな壁でした。候補地をばらして合計20件ほどの物件と交渉しましたが、オフィスビルの機能を大きく超えるためほとんどの物件が対応不可。前向きな回答が返ってきた物件はわずか3件で、そのひとつが『Kタワー横浜』でした」

「Kタワー横浜」のオーナーであるケン・コーポレーション グループにとっても、AESCの「実験室」は未知のチャレンジでした。まず内装工事の関連会社「禅」を座間のオフィスに派遣し、必要な設備を把握。オフィスビルの用途を変更せずに「実験室」を設置するプランを提案したことで入居が決定しました。

Kタワー横浜

大津寄貴司氏

実際に17階と18階にある「実験室」を見せていただきました。その内部はデスクやPCがレイアウトされたオフィスとはまったく異なる空間。見慣れない精密機器が並び、床材も異なります。

「ここは湿度がコントロールされ、ドラフトチャンバーやグローブボックスなどの実験機器、検査機器も揃っています。使用済みボンベの保管スペースや、増設した電源を設置した部屋もありますよ。『Kタワー横浜』が竣工してからここまで作り込むために、何度も調整を繰り返しましたね。床の耐荷重は800kgに強化し、排気のためのダクトは外壁から室外に出して屋上へと繋げる大規模なカスタマイズを施しました。

工場で行うレベルの施工をオフィス内で行うケン・コーポレーション側も大変だったと思います。機器をビル内に安全に運び込むための搬入計画や、自治体への複雑な届出もサポートいただき助かりました。おかげで顧客にその場で製品を見ていただき商談したり、海外拠点から訪れたメンバーと議論したりできる環境が整いました」

AESCの移転が検討されたのは「Kタワー横浜」が建築中の時期。「完成前から見ているビルだから、もう愛着が湧いているんですよ」と大津寄氏は笑います。Kタワー横浜にとって、AESCは最初の入居企業でもあります。高い技術が求められる難しい案件でしたが、デベロッパーとしても挑戦に溢れた誇らしいオフィスになりました。

Kタワー横浜

AESC 実験室

Kタワー横浜

AESC 実験室

Kタワー横浜

AESC 実験室

Kタワー横浜

AESC 実験室

Kタワー横浜

AESC 実験室

「ミュージックテラス 60・61街区」という街とともに成長するオフィス

19階から21階までの3フロアは開発部門と管理部門の執務エリア。白を基調としたクリーンで開放的な空間です。

「海外からの社員が日常的に出入りするため、可変性の高いフリーアドレスのエリアを広く設けています。リモートミーティングをクイックに行うための少人数の打ち合わせスペースや一人用のブースも複数セッティングしました。座間はいかにも日本企業らしい席順が決まったデスクが並ぶオフィスでしたが、今回の移転でグローバル企業にふさわしい環境を整えられたと思います」(原口氏)

「開発部門のフロアは特に自由度の高いレイアウトにしています。バッテリー業界は成長著しい業界です。だからこそ、オフィスは社員のインスピレーションを育てられる場でなくてはと考えました」(大津寄氏)

「ワーキングスタイルは出社とテレワークのハイブリッド。「Kタワー横浜」のグローバル本社を中心として、世界のメンバーが交流するハブの機能を持たせました。出社メンバーは視線をさえぎる建築物が少なく、見晴らしの良い眺望に囲まれて働いています。景色も社員から好評なんですよ。冬の朝は澄んだ空気のなかで、綺麗に富士山が見えます。私自身、会議室の大きな窓から見える富士山に思わず見とれてしまうことがある。日本人でよかったと、心が洗われます。海外から本社を訪れるメンバーにも、富士山を含めて眺望の良さが大好評です。このミュージックテラスは、働くエリアとしてはまだまだ成長途上です。近隣にランチをとるキッチンカーもやっと増えはじめた段階。これから充実していく街で私たちも一緒に新しいメンバーを迎え、ビジネスを活性化させていきたいと思います」(原口氏)

Kタワー横浜

AESC 執務エリア

「ミュージックテラス 60・61街区」はエリア一帯の開発をケン・コーポレーションが手掛けており、事務所、商業施設、ホテル、ミュージアムなどを含む開発も計画されています。環境をさらに整えて、あらゆる分野の企業が集う経済圏に育てていきます。

Kタワー横浜

Music Terrace(Kアリーナ横浜・ヒルトン横浜・Kタワー横浜)

Kタワー横浜

Linkage Terrace(ホテル・ミュージアム・オフィス・レストラン・商業・専門学校)※2029年春頃竣工予定

最後にオフィスの今後について語ってくださいました。

「実は、もうひとつ3階にもフロアを借りているんですよ。そこは執務エリアではなく、製品の発表や顧客向けのイベントを行うなどショールームにしていく構想です。BtoBビジネスの企業がショールームを持つことは珍しいかもしれません。しかし、バッテリー業界を長年リードしてきた企業として、歴史や価値観を発信していく場を開いていきたいのです」(原口氏)

設備計画も施工も、なにもかもが初の試みによってつくられたAESCのグローバル本社は、オフィスの機能を大きくアップグレードさせた「移転プロジェクト」のユニークな成功例です。きっと難しいだろうと思えることも、綿密な計画と、事業の方向性に徹底して向きあうことで可能になるという、勇気をもらえる事例ではないでしょうか。

ケン・コーポレーションも入居企業を全力でサポートしてまいります。オフィスの移転や新設をご検討の担当者様は、理想のオフィスの形をお気軽にご相談ください。

掲載中の施設名・駅名・社員の所属などの情報は2025年3月現在のものです。

【取材協力】株式会社AESCジャパン

AESCは、EVおよびESS(定置用蓄電システム)用の高性能バッテリーの開発・生産をおこなっている企業です。2007年に日本で設立され、横浜に本社を置くAESCは、日本・米国・英国・中国・欧州など主要市場に生産拠点を拡大し、14年以上にわたり世界中のお客さまへ製品を提供しています。これまでAESCのバッテリーは、60カ国以上で100万台以上のEVに搭載され、20GWh以上のESSに採用されています。AESCは、その高い開発力と技術力、日本のモノづくり精神、そしてクリティカルインシデント「ゼロ」という圧倒的な安全性の実績をベースとして、NMC・LFPといった様々なケミストリーと、パウチ型・円筒型・角型といった複数の形状による先進的なバッテリーを開発・供給しており、北米・欧州・アジアにおける世界中の主要な自動車メーカーやESS事業者に選ばれています。

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