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2023年7月に竣工したKタワー横浜は横浜駅徒歩圏のみなとみらい地区に立地。みなとみらいの音楽文化の発信拠点として話題のKアリーナ横浜と同じ敷地内に建つ水辺のビルです。ここにオフィスを構えて1年になる世界最大手の電気自動車メーカーのご担当者に話を伺いました。
Kタワー横浜4階にオフィスを構えるビーワイディージャパン株式会社(以下、BYD)は、1995年2月に中国・深センでバッテリーメーカーとして創業したBYDの日本法人。BYDはITエレクトロニクス、電気自動車、新エネルギー、モノレールの4つの事業を展開しており、なかでも2003年の参入以降急速に拡大、2023年の年間販売台数が300万台を超え、世界最大手となったのが電気自動車分野です。
「日本法人が誕生したのは2005年7月。2015年には中国の自動車メーカーとしては初めて電気バスを納入。現在では沖縄から札幌まで日本各地で走っており、日本の電気バス市場の約70%以上は私たちの会社の製品です。デザインの多様性、さまざまな要望への素早いレスポンスなどが評価されてこの10年ほどで急成長したのですが、BtoBのビジネスなので、あまり知られていないかもしれません。
その後、乗用車を扱うBYD Auto Japan株式会社を設立。こちらは3年目で、最近では女優の長澤まさみさんを起用したブランドCMが好調で認知度も売上も上がってきています」とBYDで総務を担当する王エイ氏。
背景にはガソリンの高騰、環境意識の高まりなどがあります。30分、1300円ほどの充電で400~500キロ走れる電気自動車と、満タンにして7000~8000円のガソリン車であれば、どちらが選ばれるかは自明の理。さらにガスと電気を掛け合わせたハイブリッド車になれば走行距離はまだまだ伸ばせるそうで、車の世界には大変革が起きているわけです。
同社ではその電気自動車の設計、デザイン、生産、営業までを一貫して自社で行っており、Kタワー横浜に設置されたのはエンジニアが働く研究セクション。
「アジアの中でも日本市場には期待しており、そのため、長い目で見て日本に研究セクションを置くことには意味があると考えました。車全体の設計等は本社で行っており、ここでは日本市場を意識したテスト、修正などを行っています」。
BYD本社は設立以来横浜にあり、Kタワー横浜からは歩いて10分強ほどの距離。営業、総務、人事などのスタッフはそちらに勤務しています。
「横浜は開港以来の伝統からか、新しいものを受け入れる土壌があるように思います。また、過密でせわしなさを感じる東京よりも、落ち着いて自分のペースで仕事ができる場所であるとも感じています。
いまやグローバルで100万人を超える従業員を擁するBYD。中国・深センにあるグループ本社は、もともと何もない草原だったところが会社の成長とともに拡大、ひとつのまちのように大変貌した場所です。それでも水辺ののどかさも残っており、そうした親近感もあるかもしれません」。
働く環境としての横浜に加え、暮らす場としても横浜には魅力があります。同社エンジニアの社宅は元町にあり、通勤はみなとみらい線で一本。初めて海外で働くスタッフのことを考えると暮らしやすさは大事なポイントでしょう。東京に比べるとオフィスにより近い場所に社宅を確保しやすい点や中華街の存在も大きいといいます。
また、みなとみらいには同社以外にも大手自動車メーカーがオフィスを構えていますが、それは自動車、自動車部品の輸出港として日本有数の規模を誇る横浜港の存在から。ビジネス上の実質的なメリットも大きい立地というわけです。
そうした中で新たに研究セクションを設置するにあたり、Kタワー横浜を選んだのにはいくつもの理由があります。
そもそも、本社とは別の場所である必要がありました。
「電気自動車の世界は日進月歩。各社しのぎを削っており、開発中の技術に関しては公開を避けたいところ。社内で情報を拡散する必要もないため、その他部門とは分け、精鋭チームに必要なだけのスペースを設置する必要がありました。
また、本社にいる営業を主にしたスタッフは8割以上が日本人で、エンジニアは中国人主体。言葉や習慣の問題による行き違いを無くすためにもオフィスは分けたいと考えていました」。
働く空間の心地よさもプラスでした。
「窓の外には緑と水辺が広がり、リラックスできると同時に集中もできます。中国では水辺は気が良く、友を呼ぶ、商売繁盛に繋がる地とされますが、実際、ここはとても気持ちが良い。クリエイティブな仕事をするにはふさわしい場所で、本社から訪れる人はみな、ここで働きたいと言っています」。
本社はKタワー横浜が見える場所にあり、王エイ氏は建物が建設される様子を日々眺めていたそうです。
「何もないところからモノを生み出していくのがメーカーの仕事。その点で景色を変えるほどの工事が行われ、これだけの建物を生みだす仕事ぶりに共感を覚えました。特に隣にあるKアリーナ横浜の存在は大きく、安心感を与えてくれます」。
来日したばかりのエンジニア達は地震に慣れておらず、少しの揺れでも不安になるそう。その気持ちを静めてくれるのはみなとみらい自体の災害に対する各種施策、ハザードマップ(横浜市ホームページ) の警戒区域外になっているなどの情報に加え、Kアリーナ横浜が隣接していること。高い技術で建てられたことが見て分かる建物があることが、周囲に信頼という影響を与えているわけです。
それ以外では新築であったことはもちろん、地下のEV充電付き駐車場の存在、エントランスなどのエレガントなデザインも魅力。
「隣接するヒルトン横浜と共通している、優美なデザインは気分を上げてくれます」。
Kタワー横浜をさらに使いこなすという意味ではKアリーナ横浜やヒルトン横浜を含めてミュージックテラスの敷地全体を利用していくことが考えられます。
たとえばKアリーナ横浜では車をアリーナ内で走らせることも可能で、屋外のアリーナデッキ部分は展示スペースとして活用できます。アリーナでコンサートを開くミュージシャンとのタイアップなど音楽と車をテーマにしたイベントは多くの人の注目を集めそうです。
また、展示会に出席する要人のおもてなしや宿泊にヒルトン横浜を利用するのは便利で喜ばれるのではないでしょうか。
現在、BYDでは3車種の乗用車を販売していますが、今後は毎年新車をリリースしていく計画で、これまで以上に自社製品をPRする必要性や機会が増えそうです。
従来の一般的なオフィスで使える空間は主にオフィス内だけでしたが、Kタワー横浜は敷地内も含めて広い空間が活用可能。企業によって異なる使い方もでき、成長を促進する場として使えます。これからのオフィスビルは場だけではなく、チャンスをも提供するものでありたいものです。
掲載中の施設名・駅名・社員の所属などの情報は2024年11月現在のものです。
BYDグループは、中国・深圳に本社を置くグローバル企業であり、環境に優しい世界を追求するためのイノベーションを提供しています。1995年にバッテリーメーカーとして創業したBYDは現在、ITエレクトロニクス、自動車、新エネルギー、都市モビリティといった多様な領域で事業を展開しています。特に自動車分野では、現在6大陸、80以上の国と地域、400以上の都市で電気自動車を展開しており、独自の技術で開発したブレードバッテリーやe-Platform 3.0といった最先端のテクノロジーを強みにしています。また、世界的に高まりつつあるEVシフトに先駆け、新エネルギー車(EV、PHEVを含む)の生産を積極的に進めたことで、世界でもトップランナーとしての躍進を始めています。
東京情報堂代表。街選びのプロとして首都圏のほとんどの街を踏破した、住まいと街の解説者。早稲田大学教育学部で地理・歴史を学び、卒業後は東洋経済、ホームプレス、東京人その他の紙、ウェブ媒体で編集者、ライターとして記事、書籍等を手がけており、主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)、「解決!空き家問題」「東京格差」(ちくま新書)その他著書、かかわった本多数。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。宅地建物取引士、行政書士有資格者。