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都心回帰という言葉が言われ出した2000年前後、同時に誕生した言葉があります。それが「ヴィンテージマンション」です。地価の下落に伴い、都心立地のマンションが増加、誰もが都心に住めるようになった時代にあって、誰もが憧れる、そして限られた人だけが手に入れることができる、10年以上の築年数を経ても坪単価で300万円以上の高い価値を維持し続ける住まい。それがヴィンテージマンションです。以下、具体的にどのような要件を備えた物件なのかを見ていきましょう。
まずは立地ですが、利便性の高い都心立地は当然として、そのうちでも希少性の高い、由緒ある高台が基本です。たとえば、千代田区では番町エリアに一番町パークマンション、グランフォルム六番町などヴィンテージと評される物件が集まっていますが、この地域はご存じの通り、かつて江戸城の西側を守るために将軍直属の旗本屋敷が配された場所。東京最古のお屋敷街のひとつともいえる場所で、現在もイギリス大使館をはじめ、多くの大使館や宮邸、大学などが点在。格式を感じさせる場所です。
あるいは、「価値の落ちないマンション」として広く知られる広尾ガーデンヒルズは外苑西通り沿いの入り口から坂を上がった場所にあります。広尾駅周辺の標高が10mほどなのに対し、ガーデンヒルズ敷地内は、起伏はあるものの30m前後。どこからアプローチしても坂を上る、高台立地というわけです。
加えて住環境にも恵まれているのが特徴。
「かつての武家屋敷跡など区画の大きな土地に建っていることが多く、商業地や大通りのような喧噪とは無縁、静かでゆったりした立地が中心です。周囲にも緑が多く、三田綱町パークマンションのように綱町三井倶楽部やイタリア大使館などの借景を楽しめる物件もあります」(宮城靖博氏)
区別では圧倒的に港区が多く、次いで渋谷区、千代田区が目立つところ。多くの人が名を知る、区内でも代表的な住宅街揃いです。目黒区や世田谷区、品川区にもないではありませんが、お屋敷街と呼ばれる地域が少なくマンション自体が少ない地域もあり、ごく限られているのが現状です。
続いての大きな特徴は広さ。都心にありながらゆったりと広い敷地に建物が配されており、住戸は100㎡超がメインとなっています。建物としてはタワーもあるものの、中心は中小規模の低層。エントランスを入るとグレード感のあるロビーやラウンジがあり、内廊下が住戸へと続くという作りが大半です。
「前出の三田綱町パークマンションは全住戸が115.71㎡~128㎡と余裕があり、しかも2LDK。贅沢なくらい、ゆったりと作られていることがヴィンテージマンションの、ヴィンテージたるゆえんです」(前出・宮城氏)
当然ですが、そうなると間取りも一般的なマンションにありがちな田の字型はまずありません。来客を想定してパブリックとプライベートを分離した、使い勝手の良い間取りが中心。リビングはおおよその目安として20畳以上、トイレやバスルームが複数用意されているのも一般的です。メインベッドルームに専用のバスルームが用意されている間取りも少なくありません。
もうひとつ、ヴィンテージマンションをヴィンテージとして存続させるために必要なのは建物の状態を長く保つための管理、メンテナンスです。築年数が古くなれば建物は劣化しますが、適切な手入れが行われていれば、劣化は進まず、逆に風格となります。
「ヴィンテージマンションでは意識の高い人たちが管理組合運営に当たっており、きちんと定期的に大規模修繕その他が行われています。たとえば三田綱町パークマンションはエントランスホールそのものを改修、刷新しましたし、広尾ガーデンヒルズで最も格付けが高いとされるサウスヒル3棟では、高額に及ぶエレベーターの籠の交換に踏み切っています」(前出・宮城氏)
もちろん、日常の手入れも重要です。管理員、警備員、コンシェルジュが常駐しているのはむろんのこと、物件を見に行くと分かりますが、ヴィンテ―マンションでは敷地、建物内の清掃が行き届いており、ゴミ置き場に至るまで清潔に保たれています。いつ行っても清掃している人の姿を見かけるような物件もあるほどで、手を入れれば入れるほど物件は磨かれるものであることが分かります。
植栽の見事さも共通するもの。もし、広尾ガーデンヒルズにあの緑が無かったらと想像すると、長年の手入れに育まれた緑が大きな価値となっていることが分かります。また、「麻布霞町パークマンションのように、エントランスにいつも生花が飾られている物件もあり、そうした気配りが価値に繋がっていることを感じます」(前出・宮城氏)といった些細ながら、他との差別化となるポイントもあります。
最後にヴィンテージマンションを手に入れたい人に向けて、役立ちそうな情報をいくつかご紹介しましょう。まずはヴィンテージマンションの数字的な目安について。
冒頭で、ヴィンテージマンションの築年数の要件を築10年以上と記載しましたが、これは都心の高額物件を中心に扱う雑誌「都心に住む」(リクルート刊)の定義にならったもの。ただ、管理組合の運営状況が大規模修繕に表れることを考えると、最初の大規模修繕が行われることが多い、築12~13年以上を目安にしたほうが、物件の管理状況を正確に把握できるかもしれません。
また、同誌では価格の目安を坪(3.3㎡)単価を300万円以上としていますが、それに加えて価格の変動が少ないことも条件。
「分譲時以降、大きな景気変動の波に多少左右されることはあっても、価格が落ち続けることがないのもヴィンテージマンションの特徴です。たとえば、1986年に建築された南青山豊田パークマンションは2016年秋にエントランスなどをほぼ新装するような大規模な工事が行われ、市場に出ました。その価格は坪単価でおよそ700万円。2016年に同じ南青山で竣工したザ・パークハウスグラン南青山の未入居物件の成約単価が概ね坪単価800万円以上で成約していることを考えると、非常に高い水準で価値を維持していることが分かります」(前出・宮城氏)
南青山豊田パークマンションは築31年(2017年時点)。それでも周辺の新築物件に負けず劣らずの価格を付けていると考えると、ヴィンテージマンションの真価が分かろうというものです。
もうひとつ、今後の供給予測について。もし、これからヴィンテージになりそうな物件があれば、先取りしてその物件を買うという手があるわけですが、残念ながらそのあたりは期待薄です。
「景気が低迷していた2000~2003年頃に、企業の接待用ゲストハウスや迎賓館の売却が相次ぎ、それがマンションになりました。代表的な物件としては西武鉄道グループの故堤康次郎氏の屋敷跡で、セゾングループの迎賓館として使用されてきた「米荘閣」が転じた「ザ・ハウス南麻布」です。しかし、その時点で都心のまとまった一等地は払底。今後、供給される可能性がある土地は、南青山国家公務員宿舎跡地を活用したザ・パークハウスグラン南青山のように、都心の国家公務員宿舎跡地くらい。ただ、ヴィンテージとして作るためにはある程度の広さが必要ですから、該当する土地はほとんどないと思われます」(前出・宮城氏)
この先、ヴィンテージになる物件が出ないとすると、現在そう位置づけられている物件の希少性はますます高まることになります。都内でも数が限定されることから、いつでも買えるというわけではありませんが、都心に住むのであれば、そして生活の質を高めたいと考えるのであれば、一度検討してみても良いかもしれません。
借りる、買う、貸す、建てるなど、住まいに関する雑誌、書籍、インターネットなどの編集に携わること20数年。長らく表参道に暮らし、都心居住の快適さを身をもって実感している。All About「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。
掲載中の物件名・プロジェクト名・駅名・社員の所属などの情報は2017年5月現在のものです。